新・京王電鉄/線路配線
1.はじめに
新・京王電鉄のテーマは「三線区間を取り入れた妄想鉄道」です。
複線では輸送力も速達性も確保できない、しかし複々線化はコストがかかり過ぎる。では、複線にもう1本線路を増設して3線化したらどうか…という発想は昔からありますが、我が国で本格的に導入された事例はありません。


2.現実世界との相違
新・京王電鉄では、桜上水~調布間に三線区間を設定しました。三線の構成は、最終的には上り線を二線(緩行線+急行線)、下り線を一線としていますが、そこに至るまでにはいくつかの配線案がありました。それを紹介する前に、他にも現実世界に対して改変を加えている箇所について解説しておきます。
新宿~笹塚間
この区間は、都営新宿線との直通運転に際し、京王百貨店地下の新宿駅を廃止して、新たに直通運転用の新駅を3面3線で設けた、という設定にしています。現実世界の新宿駅は、隣の小田急駅と同様に輸送量増大に対応するために何度も巨費を投じて改造工事を施工しているのに対し、妄想世界では既存駅の改造を諦めて潔く新駅に切り換えた、という考え方です。つまり、現実世界の「京王新線」のみで乗客を捌いていることになります。新宿駅はさすがに上り(2・3番線)を両面ホームにして乗降性を向上させていますが、下りホーム(1番線)は夕方ラッシュ時はかなり混雑することになるでしょう。
千歳烏山駅
現実世界の退避駅である八幡山は(隣の退避駅である)桜上水に近すぎてあまり有効に活用できないので、妄想世界では千歳烏山駅を退避駅としています。
調布駅
相模原線との分岐を平面交差ではなく立体交差にしています。小田急は(他にも理由はありますが)多摩線建設に際して立体交差の分岐設備と3面6線の新駅を用意しています。京王帝都電鉄も相模原線を建設する際に立体交差化は絶対に果たしておくべきだったでしょう。新・京王電鉄では、その観点から相模原線建設と同時に調布駅の改良と桜上水~調布間の三線化を施工した、と設定しています(本線・井の頭線連絡線の施工はもっと前です)。
(なお、2012年8月の地下化によってこの妄想の半分は現実のものとなりました。正直に申し上げると、筆者は地下化はまだまだ数年単位で先だろうと思って「新・京王電鉄」をアップしたのですが、意外なほど工程が早くて驚きました…)
飛田給駅
当駅は、現実世界では味の素スタジアムの完成に合わせて2面3線化されたのに対し、妄想世界ではずっと以前から2面4線化されていたことにしています。これは、調布駅で準急が特急を退避するようなダイヤが組めず、その代替機能を当駅に求めたことによります。
北野駅
現実世界の当駅は、京王八王子方からと高尾山口方からの同時到着ができない配線となっているのが何とも困りものです。そこで妄想世界では「現実世界における調布駅」と同じ配線としています。
若葉台駅
今回妄想したダイヤでは調布方から当駅で入庫する列車が多くなることから、下り線から3・4番線に到着できる渡り線を設けています。
大島駅
現実の京王電鉄に対して妄想要素を加える以上、直通先である都営新宿線にも妄想は及びます。「新・京王電鉄」では当駅を2面4線として、緩急連絡が上下線同時に行えるようにしています。これは、日中に急行を10分ヘッドで頻発させるためです。
なお、今回の妄想では大島にある車両基地が新・京王電鉄を含めた全線に対して重要な役割を果たすようになるので、本来なら基地への入出区線を複線化してロバスト性を持たせたいところですが、ダイヤ的には単線でも賄えそうなので現実世界のままとしています。
3.三線区間の配線案
案1
上下線の間に「中線」を増設し、朝ラッシュ時には上り急行線、夕ラッシュ時には下り急行線として使用するものです。



中線を下り方向・上り方向どちらで使うか、の切り換えは桜上水・千歳烏山・つつじヶ丘・調布の4駅で行います。下の図のように、例えば桜上水~つつじヶ丘間では上り線使用、つつじヶ丘~調布間では下り線使用とすることもできます。ダイヤの組み方次第では、上下線で各駅停車が途中で優等列車を退避しないで済むようにできるかもしれません。

しかし、案1は、桜上水・千歳烏山・つつじヶ丘を通過する特急が分岐器による速度制限を食らってしまうという大問題が発生します。この3駅はいずれも特急を高速で通過させたい駅であり、所要時間が増加して他社との競争力が削がれるという事態は避けたいところです。
案2
案2は案1の改良型です。千歳烏山・つつじヶ丘を通過する特急が分岐器速度制限を受けないように中線をホームの無い通過線にします。

中線を上り急行線として使用する場合は下図のようなルート設定になります。千歳烏山・つつじヶ丘では、両駅に停車する上り優等列車を中線から4番線に転線させ、両駅を通過する列車は中線をそのまま通します。つまり、優等列車同士の追い抜きが可能です。

しかし、案2は、千歳烏山・つつじヶ丘で複々線化する以上にスペースを要することになってしまいます。また、両駅に存在する分岐器の数は12個に達し、設備的にも複雑になります。これはいくらなんでもやり過ぎと言うべきでしょう。
案3
案3は案1・2とはまったく異なり、三線を下り線+上り緩行線+上り急行線で構成するものです。上り急行線を外側に配し、下り線と上り緩行線を各駅で島式ホームとしています。線路の用途を固定することで設備が圧倒的にシンプルになっており、特急が速度制限を受ける問題も一応クリアできています。


案3は、下り急行線を増設すれば比較的容易に複々線化が可能です。現実世界における八幡山駅の配線を見れば、京王帝都電鉄が下図のような内側緩行線・外側急行線式の複々線化を考えていたことが判ります。

ですが、よーく考えてみると…案3は、この区間の設備の姿を根本的に変えてしまうわけで、ここまでやるのであれば中途半端な三線化というステップを踏まず、一気に複々線化まで持っていくのではないか、と考えられるのです。また、この案は、桜上水駅で新宿方からの列車を折り返す際に緩行線列車の進路を2度支障するという課題もあり、三線区間の使い勝手は決して良好とは言えません。
案4…決定稿
ということで、最終的に行き着いたのが案4です。案1のように上下線の間に中線を設け、上り急行線専用として設備をシンプルにしています。優等列車の高速性も損いません。
ただし、将来、下り急行線を増設して複々線化する場合、各駅でホームや駅舎の支障移転が必要となり、高コストな工事を強いられます。現実問題として三線化の導入事例が少ないのは、おそらく、将来にさらなる輸送力増強が必要になったときの手戻りのリスクが大きいという事情によるのでしょう。
また、この案4を複々線化したときの線路配線は下り急行、下り緩行、上り急行、上り緩行という順番になり、完成後数十年にわたって使うハードウェアにしては使い勝手の良いものにはなりません。三線化というのは「これを完成形とする!」という決断が必要なのです。


桜上水駅の配線
「新・京王電鉄」の妄想における最重要ポイントが桜上水駅の配線です。
当初案が下図の"妄想案―1"です。基本的な考え方は以下のとおり。
- 新宿方・渋谷方からの発着ホームを完全に固定して配線を簡素化した
- 新宿方からの折り返し列車を2・3番線間の引き上げ線に入れて他の列車の進路を支障しないようにした
- 連絡線を外側に配し地下へのスロープの施工性を確保した

しかし、"妄想案-1"には以下のような欠点もあります。
- 引き上げ線を2・3番線の間に挟むのでホーム部分で従来よりも広い用地が必要になる
- (特急・急行を運転する)新宿方面の列車の当駅での追い抜きが不可能
- 留置線にアクセスするルートが限定されていて回送列車のスムーズな収容に不利
特に、三線区間の配線の【案4】では下り線の輸送力が増強できないので、朝ラッシュ後に新宿・渋谷方からの列車を全部調布方へ流すことができず、桜上水の留置線にある程度の本数の編成を収容しなければならないので三番目の問題は重大です。
そこで、これらの課題を解決すべく配線を見直したのが"妄想案―2"です。
- 1番線を高速通過可能な線形にすることで必要な用地を最低限にした
- 新宿方→2番線到着、4番線→新宿方出発を可能とする渡り線を設けて当駅での追い抜きを可能とした
- 上下線間の引き上げ線のほか、留置線の一部も折り返し可能として入換のタイミングに応じ使用する線路を柔軟に変えることができるようにした
ただし、渋谷方からの連絡線を新設する際は営業中の線路の間で施工しなければならず、工期・工事費の面では不利になります。が、前述のように一度造ったら数十年使う設備であり、最初に設計を間違えると大変な禍根を残すことになりますから、ここは工事部門に頑張ってもらうしかありません。