京急品川駅改良
成田~羽田短絡線のページを作成した2010年当時は、京急品川駅の改良はまだ海のものとも山のものともつかぬ「妄想」の扱いでした。それから10年が経過して、JR品川駅の線路配線改良工事、高輪ゲートウェイ駅開業などが果たされ、品川地区の大規模再開発は京急線に施工のフェーズが移りつつあります。このページでは、京浜急行品川駅の改良工事がどのように行われるか、想像してみたいと思います。
1.プロジェクトの全体像
京急品川駅に関連する事業は、
の2つに跨がっています。本ページではこれらを総称して京急品川駅改良と呼ぶことにします。
なお、これらの事業については、
が詳しいですので、併せてご覧下さい。
このページの主題は、京急品川駅改良工事における線路配線と駅構内の施工ステップを推測することです。関係者間ではすでに決定済なのでしょうが、何せ公式な資料がネット上に見当たらないものですから、入手できる資料を手掛かりに考えていきます。
2.線路配線のステップを考える
(1)現状の線路配線

京急の品川駅が、決して充実しているとは言えないハードウェアで多数の列車を捌いていることは今更説明の必要も無いでしょうが、あえて申し上げれば「3番線があまりにも使いにくすぎる」の一言に尽きます。8両編成用の折返し専用ホームであり、しかもY線構造でないため出発時には上り線との交差支障が発生します。ダブルスリップスイッチ(DSS)を使っているので交差支障時分が極少化されているのが救いではありますけど… ほぼ全ての下り列車を1番線一本だけで発着させねばならず、ホーム上の混雑も慢性化して久しいです。
この線路配線のため、他の民鉄各社で実施されている「優等列車の発車直後に普通列車を発車させる」および「普通列車の到着直後に優等列車を到着させる」というダイヤが組めません。実際のところは、京急の機動性の高い運転取り扱いによってそれに近いことをやってはいるものの、物理的な限界はあります。
また、泉岳寺駅については、ホームがどうしようもなく狭いのが痛い。さらに、西馬込方面・京急線方面双方へ折返しができるにも関わらず、三田方にある折返し線が1線しか無く、ダイヤを大きく制約しています。
(2)完成形はこのようになると思われます

- 北品川駅
- 相対式2面2線+保守用車線1線の高架駅に造り替えられます。位置的には現在の駅から少しだけ南側にズレることになっています(これらもアナウンスされています)。
- 品川駅
- 現在の高架駅が地平化され、2面4線+引上線2線(いずれも12両対応)の構成になります(これはアナウンスされています)。線路配線は筆者の推測ですが、浅草線直通列車と当駅折返し列車を効率よく捌くためのごく標準的な配線になるでしょう。位置的には、高架の北品川駅からJRの線路を跨いで一挙に地平に降りていくスロープ部分の勾配を緩和するため、現駅より北にズレます。
- 泉岳寺駅
- 駅が全体的に東(図の下側)へ拡張されホームが拡幅されます。また、引上線も2線に増強されます(これはアナウンス済)。ただし、線路配線は、公的資料にある線路用地の拡幅形状に基づいて筆者が予想したものです。
(3)基本方針はこのようなものになるでしょう
下り線から使用開始していく
これは品川駅の地平駅を造る用地が現駅の下り線側(東側、図版の下側)にあるのですから当然のことでしょう。これにより、新馬場方の切換口でも下り線側を先に切り換えることが自動的に決まります。
ところが、新馬場~北品川間には、現在の線路の西側(上り線)側に、昔の新馬場以南の高架化工事の際に使用したと思われる線路用地があります。ということは…この線路用地に仮線を設け、現在の高架橋(というか高架の新馬場駅から地平の北品川駅へ降りていくスロープ)を撤去して、高架の北品川へ繋がる高架橋を造り直す、というステップになるわけです。
泉岳寺駅と品川駅の工程はリンクさせない
筆者は、泉岳寺駅のホーム拡幅の報を聞いたときは、泉岳寺~品川間は少なくとも下り線のトンネルは完全に掘り直すのだろうと考えておりました。しかし、連続立交の事業範囲を見てみると、泉岳寺駅そのものには手を付けないことになっており、どうやら泉岳寺~品川間におけるトンネルは(部分的に)既存のものを使うようです。これは、コストの面でも、また、工程管理の面でもそうすべきでしょう。トンネルを掘り直すと、泉岳寺駅と品川駅の工程がリンクしてしまい、片方にトラブルが発生すると他方にも波及することになるためです。
この方針により、泉岳寺駅の工事は、同駅の運転取扱機能を少なくとも現状より縮退させないようにステップを刻まねばならなくなります。また、品川駅の方も、泉岳寺駅の運転取扱機能の強化をアテにしないようにステップを考えなければなりません。
ただし、本ページでは、泉岳寺駅と品川駅の施工ステップは一体の図で表現することにします。図版が多くなるといろいろと面倒なのでこの点はご容赦下さい。
品川駅の折返し機能は極力確保する
このプロジェクトは、既存の踏切を除却することが主眼となっておりますが、もう一つ大きな目的があります。現在の品川駅の引上線の高架が、建設を予定されている幹線道路(環状4号線)に支障しているのを解消する、というものです。そのため、一旦引上線を撤去してから新引上線を跡地に造ることになります。その間も、12両編成で発着する列車の増解結や普通列車の折返しのため、品川駅での折返し機能は確保しなければなりません。このことも施工ステップを推測するうえで大きな制約条件になります。
(4)ステップ2

- 新馬場~北品川間
- 仮線2線を構築し、山側(図の上側)の1線を仮上り線に切換。北品川駅上りホームは一時的に島式化します。
- 品川駅
- 3番線を北に延伸して泉岳寺へ潜っていくスロープへ接続する部分を構築します。この仮線は工事の終盤まで使用することになります。
- 泉岳寺駅
- 三田方に新北行線を、駅海側に新京急下り線を構築します。
(5)ステップ3

- 新馬場~北品川間
- 下り線を仮線に切り換えます。旧下りホームは直後に撤去。新馬場の切換口は複線分岐の形にしておきます。ここではステップ4~6の間は3線が稼働していなければならないためです。
- 品川駅
- 品川駅3番線を4番線に変更し浅草線直通列車専用とします。8両対応なので、12両で到着した列車の増結4両の解放はできなくなります(たとえ12両用ホームにしたとしても、増結車4両を引上線に収容できない)。よって12両編成の列車は2番線到着→引上線→1番線発車の折り返しのみとなります。また、1番線のホームを北品川方に延伸し(次のステップへの布石です)、旧JR山手線の電留線入出区線跡地に新下り本線を構築します。泉岳寺方のトンネル抗口は、一時的に2線分に拡幅します。
- 泉岳寺駅
- 三田方の上り線を新線に切り換え、新京急上り線を0番線として使用開始します。一時的に着発線が5線になります。
このステップを果たすと、浅草線直通の上り優等列車は品川駅の手前(神奈川新町か京急川崎)で増結4両を解放しなければならなくなります。この制約はステップ6を果たすまで続きます。
(6)ステップ4

- 北品川駅
- 品川方は旧線の直上に新線を構築します。新下りホームはまだ使用しません(新下り線は当面優等列車専用になるためです)。
- 品川駅
- 新1番線は浅草線からの直通列車専用となります。高架引上線、旧上り線は使用停止後、即座に撤去します。旧1番線は北品川方8両分(延伸部分を含む)を仮2番線として泉岳寺方を使用廃止し主に普通列車用に、旧2番線を仮3番線に名称変更し12両対応の優等列車用ホームとします。これにより2線の折返しホームを確保できます。下り列車が発車するホームが別の場所に3つもできるので旅客案内の手間は大幅に増えるでしょうが、致し方有りません。
- 泉岳寺駅
- 品川方で1番線の線路を浅草線南行に接続。三田方では旧北行線を引上線として再利用し、在来の引上線を使用停止します。これは、トンネルの延伸や分岐器挿入等を行うためです。
(7)ステップ5

- 北品川駅
- 高架上りホームを使用開始。地平ホームはこの段階で使用停止できます(仮上り線が優等列車専用になるため)が、撤去を急ぐ必要は無いので後回しにします。
- 品川駅
- 1番線のホームを泉岳寺方に延伸し停車位置を変更。新上り線の品川止まりの列車は暫定的に2番線に到着させ、新引上線で折り返して1番線から発車させます。高架ホームは4番線を除いて全て撤去し、跡地に新上りホームを構築します。
- 泉岳寺駅
- 従来の引上線は延伸したうえで使用を再開します。3番線を使用廃止して線番号を振り直し、4線運用に復します。
(8)ステップ6

- 北品川駅
- 仮上り線をやっと使用廃止できます。ホームを含めて即座に撤去します。
- 品川駅
- 新上りホームの3番線を使用開始します。新4番線は旧4番線(このステップで使用廃止)用の駅舎を撤去してからでなければ完成できませんので使用開始はまだ先です。
- 泉岳寺駅
- 3・4番線ホームを拡幅し新3番のりばを使用開始します。2・3番線ホームは使用停止直後に撤去し完成形になります。
(9)ステップ7

3.駅構造のステップを考える
(1)現状はこのようになっています
薄いピンクの線は、新駅の線路・ホームを公的資料を参考に「こんなもんかな」的に配置してみたものです。駅を全体的に北側(図版の右側→)にズラすため、現在の駅は全面的に造り直しになります。最も下にあるピンクの線が将来の下り本線であり、この線路を、現設備を支障せずに建設できる(山手線の電留線への入出区線の跡地であるため)、というのがキーポイントです。
(2)ステップ2を飛ばしてステップ3
ステップ2は北品川付近の上り線の仮線切換がメインなので品川駅の図版は省略します。
まずは旧3番線を4番線に改称し、北側へ延伸させて仮上り線(泉岳寺に向かうトンネルに繋がる)を構築します。そのためには先行して現駅舎の北側にあるビルを撤去し、横断歩道や交番等を支障移転しなければなりません。駅前広場(ロータリー…と呼べるものでは無い)も一時的に閉鎖し工事ヤードとします。タクシー乗り場だけは代替設備を確保する必要があるでしょうが、本ページではそこまで考えません。
4番線は浅草線に直通する優等列車の専用ホームとなります。2番線(元1番線)ホームは0.5両分ほど北品川方へ延伸し、跨線橋に階段を増設します。これは次のステップへの布石です。
また、JR品川駅を東西に貫通する自由通路については、京急の高架線の下をくぐるところを半分閉鎖し、とりあえず国道15号の横断歩道に繋がる歩行者ルートを確保します。この際、エレベータを使用不能にはできないので、1Fの図では仮設通路を設けてバリアフリールートを維持します。これだけの重要駅でバリアフリールートが失われるというのは有り得ません。
1Fには新1番線を建設中。この線路だけは現設備をあまり支障せずに造ることができますが、北品川方の1.5両分は仮設ホームとなります。このホームは浅草線から直通してくる優等列車の専用ですから、この段階では8両分の長さがあればOKです。
(3)ステップ4
ステップ4の切換で新1番線を使用開始。仮2番線は8両・仮3番線は12両対応の折返用ホームとなり、泉岳寺方の引上線に至る高架橋と、JRとの乗換改札を即座に撤去します。そして、空いたスペースに2F自由通路を構築し、1F自由通路を閉鎖します。
(4)ステップ4.5を追加しました
線路配線ステップだけでは駅舎の切換を表現できないため追加した図版です。ステップ4で新1番線を使用開始した後、2番線を北品川方8両分を残して全て撤去し、3番線もホームの泉岳寺方終端で線路を行き止まりにします(この終端部の高架橋を、新2番線の建設に支障しないようにするのが非常に重要です)。1Fでは、泉岳寺方の高架橋を撤去して新1番線ホームを泉岳寺方に延伸した後、北品川方の仮設ホームを撤去します(新上り線の工事に支障するのを回避するため)。
12両編成は3番線で折り返すしかないわけですが、3番線は出発時に上り到着列車と競合する配線ですので、せめて8両以下の発着には2番線を常用したいところです。しかし、2番線ホームへはバリアフリールートが無く、車椅子の乗客の対応は階段に仮設した車椅子昇降装置に拠ることになります。当駅のオペレーションにおいて、京急がもっとも苦しむ場面になるでしょう。
※または、3番線も8両対応として、2・3番線を頭端式ホームにしてしまうことも考えられますね。次のステップまで12両編成を品川駅に一切持ち込めなくなりますが。
2Fでは、JRとの乗換改札を再建し、自由通路に接続する改札口を新設します。
(5)ステップ5
ステップ5では、北品川方の新上り線を新2番線に接続して使用開始します。JR乗換改札・自由通路改札が稼働し、縮退していた旅客取扱能力が復活し始めます。
高架の旧2・3番線は使用停止後、即座に撤去を始めます。新2番線からは泉岳寺方に出発できないので、浅草線直通列車は引き続き高架の4番線に発着します。
その4番線は、従来の駅舎がいよいよ新上りホームの建設に支障するため、改札口やトイレを高架ホーム上に仮設します。この手間を省くには、新2番線から泉岳寺方へ出発できる配線計画にすることも考えられますが…引上線が2線あっても、広いとは言えない下りホームだけで全ての列車を捌けるか? と言われると、さすがにキツいのではないかと思います。
(6)ステップ6
高架ホーム(仮2・3番線)を撤去して空けたスペースに新上りホームを構築し、新3番線を使用開始したところ。こちらから泉岳寺方へ出発できるようになったことで、長い間お世話になった旧4番線は用済みになります。しかし、新4番線は、旧4番線へのアクセスに使用した駅舎が支障して完成できませんので、あともう1ステップ必要になります。
2Fの橋上駅舎も、京急線用の改札が全面的に使用開始し、不便を極めた状況から脱します。
(7)ステップ7
高架ホームと旧駅舎を全て撤去し、新4番線を使用開始して駅部分は完成です。あとは、自由通路を挟んだホーム上に2棟のビルを建設し、さらに国道15号線上に構築する人工地盤と自由通路を接続する工事等を進めることになります。
4.このページの内容はあくまで筆者の推測ですよ?
工事ステップに関して何も公表されていないので、事業範囲や、概略図に過ぎない断面図などから推測した結果が以上となります。浅草線への直通機能を維持しながら、少しずつ駅の形を変えていく…という施工方法であれば、誰でもだいたいこのようなステップを構想するのではないかと思います。
今回の記事を作成するにあたっては、線路切換工事は定石どおりに事前に分岐器を挿入する方法を採用しましたが、リアルに関係者間で合意されているプランでは、もしかすると東急が代官山駅でやったような、線路を立体的に切り換える工法を採っているかもしれません。筆者の案の難点は、新馬場~北品川間に2本の仮線を設けられるのか…という点でありまして、ここを何とかするにはこの工法を適用して1本分のスペースを浮かせるしかないからです。
施工中の運転形態を含めて、早い情報公開が望まれるところです。
2020/11/01 Panzerfalcon